第4回 『北欧の幸せな社会のつくり方 − 10代からの政治と選挙』読書会ノート

第4回 ノルウェー読書会 『北欧の幸せな社会のつくり方 − 10代からの政治と選挙』

(あぶみあさき著、かもがわ出版、2020年)

ん? 選挙って楽しそう! そっか、幸せな社会ってこうやってつくるんだ

 

  第4回の読書会では、社会系の新刊を取り上げました。草の根の民主主義が根付いた北欧社会の選挙制度については、さまざまな書籍や記事で取り上げられていますが、今回の『北欧の幸せな社会のつくり方』では、とくに若者に焦点が当てられています。読書会には30代から60代、かつての若者が6名集まりました。

  本を手に取り最初に出たのが、ポップな見た目についての感想でした。ノルウェーデンマークスウェーデンフィンランドからの取材写真がこれでもかというほど掲載されていて、若者の楽しげで生き生きした様子に「本当に政治の、選挙の一場面?」と驚きます。そして少し読み進めると「選挙や日常にみる、北欧デザインの役割」というページがあり、なるほどと納得。〈…選挙や政治にも北欧デザインを見つけることができる。どの媒体も、「民主的な構成」になっているかを考慮して作成〉〈民主主義には「わかりやすさ」も含まれ、…各党の選挙スタンドがカラフルで楽しい北欧デザインになっているのも、市民に親しんでもらおうと考えられた結果〉(p.34)とのこと。わかりやすさ=民主主義の視点は、日本のいろんな場面ですぐにでも参考になりそうです。

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Foto: S. Inoue

  上の写真は、参加者のおひとりからいただいた2013年国政選挙時の様子です。選挙期間中、オスロの目抜き通りに、このような選挙スタンドが並びます。だれでもスタンドに立ち寄り、各政党の政策について質問したり、議論したりすることができます。有権者に関心をもってもらう方法はいろいろあるのだなぁと感じました(ただし、こうした選挙スタンドが出るのは、オスロなどの大都市に限られると思います)。

  さらに、本書の写真を見ていると「デモの参加者に女の子が多いね」という声が出ました。「毎週金曜日、子どもたちがお手製のプラカードを持って集まる。気候変動デモ」からのページ(pp.110-)には、とくに小中高生の参加するデモの様子が紹介されています。女の子や女性の数が多く、その力強い姿が印象的。デモなどを通して、移民、女性、若者という社会の少数派が声を上げやすく、その訴えに耳を傾けようとする社会的な土壌があるのでしょう。そして、こうした子ども時代からの経験が、若者や女性の積極的な政治参加につながっていくのだろうなと思いました。

  著者と同年代の参加者からは、「同い年くらいの人が、偶然ノルウェーに行き、ジャーナリストになり、政治に強い関心をもつようになり、こういう本を出していることに感動したし、それをあと押しするような社会に力を感じた」という感想が出ました。本書を読んでいると、学校や社会が、男女を問わず、小さな子どものころから自分の意見を口に出すこと、民主的な議論と行動を尊重することを教え、積極的な政治参加をあと押ししていることがよくわかります。そのためのさまざまな工夫が、この本には紹介されています。

 〈報道の自由度ランキング〉を取り上げたコラムからは、「検閲など、報道の自由度のとらえ方が日本とずいぶんと違う」、「以前、ノルウェーのニュース報道でホームレスの人にインタビューしているときに、『ホームレス』という肩書とその人の実名が出ていたのに驚いた」、「本のタイトルに『幸せな』は必要だった?」など、いろいろな方向に話が広がり、読書会の2時間はあっという間に過ぎていきました。

  個人的には、日本とはあまりにも違う北欧社会のあり方に、「こんなの日本では無理」とよその国の話として読み飛ばすにはあまりにももったいない、民主的な社会へのヒントが満載の一冊でした。日本のどこかの首長が、〈私たちの市(県)は、若い有権者投票率アップを目指します!〉と宣言したりしないかなと願いつつ、いまの若者にこの本を手に取ることを薦めていきたいと思います。(千)

 

 あぶみあさき(鐙 麻樹)(1984−)

ジャーナリスト、写真家。秋田県生まれ。ノルウェーオスロを拠点に北欧情報を発信。ノルウェー国際報道協会理事会役員。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程(副専攻ジェンダー平等学)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーションノルウェーから「国を日本に広めた優秀な大使」として表彰される。さまざまなメディアで寄稿、連載多数。