第1回 『薪を焚く』 読書会ノート

第1回 ノルウェー読書会
『薪を焚く』(ラーシュ・ミッティング、晶文社、2019年)
 日常の仕事で元気になる老人の人生が味わえる本
 
 2013年にNRK(ノルウェー放送協会)が「薪の夕べ」という12時間の生番組を放送しました。そのうち8時間は薪が燃える映像のみという番組を、5人に1人のノルウェー人が見たのだそうです。この番組にも出演したラーシュ・ミッティング(51歳)が書いた『薪を焚く』が、昨年末に日本でも出版されました。
 北欧では「薪を焚く」ことは、暖をとる以上の意味がある(=互いの無事を確かめ合う)ということを、著者は、隣の老人が薪仕事を通じて「老いも病気も抱えてはいるが、それを健康的な新しい生きる力と置き換えていく」プロセスとして、丁寧に描いています。原始から数千年にわたる寒冷地での定住は「薪」なくしてありえず、たかだか100年ほどの歴史のファンヒーターでは太刀打ちできません(たとえ電力供給が絶たれても、薪さえあれば、お湯が沸かせ料理も出来る)。
 この本は実用書だということですが、ストーブに薪は1本ではなく2本入れるという「技」の説明も、「夫婦のベッドに人が二人並んでいるのによく似ている」として、「片方の薪から出ている炎がもう片方の薪に火を付け暖める」という具合に想像力豊かに表現しています。また、「着火は上から」という薪の正しい焚き方については、「橋にばあさん作戦」として手順を具体的に解説してくれます。ノルウェー製薪ストーブのある会場で開催された今回の読書会では、この焚き方の実演もあって、得心させられました。
 隣の老人は、肺を病んでいるにもかかわらず薪積みの手作業のおかげで「力」を湧かしますが、薪棚は後に残される…結婚して50年になる妻のための薪積みだった、という短編小説のような味わいも、この本で楽しめます。訳者の朝田千惠さんは、薪づくりから薪焚きの全工程を体験して訳されたそうで、細部にまで愛着を持って訳されていることが伝わってきます。たくさん用いられている写真が美しく、北欧諸国でクリスマスの贈り物として多く購入され、ベストセラーになったというのも頷けます。
 日本語訳は、表紙カバーのデザインが「かっこいい」ので、手に取るのが楽しくなる本に仕上がっています。(掛)